ペーパーさんのソニア版「ポストモダン宣言」草稿へのレス

お疲れさまです。ご苦労なさったのではないですか?なかなかに深遠なテクストに仕上がりましたですね。きっとそのハイブローさゆえに、「口語訳をおつけなさい」とおっしゃる向きもあると思うので、ためしに個人的口語訳(というよりは意訳)をつけてみました。御笑覧ください。


ポストモダン宣言  ― 亡命者の言葉を語ること ―
 現代は亡命の時代である。たとえ、自らの国、言語、性、アイデンティティーを知ら ない他者にはなれないとしても、私たちは、常識というぬかるみを回避しながら、越境 せざるを得な い。亡命とは、異端の一形式である。亡命には、家族、国家、言語からの決別を伴うからである。


きっともう、〈わたし〉には居場所なんてない。〈わたし〉がいったい何者なのかを明らかにする、いくつかの決まりきった条件について知らん顔などできるわけないのだけれど、そうした決まりごとまみれの世界から旅立たなくちゃいけないから。いままで〈わたし〉を〈なにか〉に繋ぎとめていてくれたリンクからはずれることは、とても困難で孤独なことかもしれないのだけれど。

 言説、思想、存在の様々な働きを解体すること。この残酷で不遜な解体は、私たち異端者の作業である。そうした作業には、不 断の分析、警戒、破壊転覆の意志が必要とされる。亡命者は、あらゆる絆を断ち切る。亡命者自身を結びつける絆すらも断ち切る> のである。


でも、いままでの決まり文句や決まりごとから、ちょっとだけ身をかわしてみよう。そうすることが〈わたし〉の新しい仕事なのだもの。あるときには息をひそめて見守り、あるときには不意打ちを企てるような、柔らかいフットワークが必要だし、時にはきっと、わたし〉自身の身を切り付けるような痛みを伴うのかもしれないけれど。

 モダンな生活の周縁部を、想像してみよう。そうした空間で、> 各ジャンルは不明確となり、必然性は、偶然性に席をゆずる。意味は刻印されると同時に簒奪され、アイデンティティーは疑問に付される。サブスタンスを奪われた人類は、亡命者として、苦渋
に満ちた生活を余儀なくされる。


〈わたし〉がいきているこの世界の向こう側は、鏡の国のアリスみたいに、たぶんきっとあべこべで、いままでの決まりごとなんて、こぼれる涙をぬぐうハンカチーフにすらならないはず。いま見えている世界の約束事だけでは、いきていけないそんな世界。

 周縁的な拠点、マージナルな領域。そこは、複数の物語が交錯する場である。物語は、多義的である。強制・抑圧し、脅かし、矯正し、惜しみなく与え、蠱惑し、放逐する。こうした拠点で は、唯一、究極、至高の存在などありえない。私たちは、多様な権力の作用するモダンな空間の住人である。


でもそこは、まだ見たこともない複数の可能性があるかもしれない世界。シンプルで判りやすい世界ではないかもしれないけれど、いくつものコトバや気持ち、メッセージが、あやとりの糸みたいに絶えず姿を変えながら、きっといろいろな兆候〈サイン〉を見せているから。それは、緊張と弛緩をくりかえす糸が織りなしていく、常に不定形の世界かもしれない。でもそこには、いままでの約束事から一緒に身をかわして、一緒にあやとりをしてくれる〈あなた〉がいるかもしれないから。そんな幸運な瞬間においてのみ、ほんのひととき〈わたし〉が〈わたしたち〉になれるのでしょう?

 だからといって、私たちは、外部の最高の敵に抵抗したり、闘争を挑むわけではない 。マージナルでモダンな領域では、内部と外部は明確に画定されず、意味は疑われ、同一性や共同体も不確実である。非決定、暗闇、無秩序、混乱、非合理、統治不可 能、恐怖、アナーキー。


もちろん、闘争!、なんていう勇ましい掛け声なんか、きっと風に吸い込まれてどこかに消えてしまうにちがいない。だから、そこでは〈あたなたち〉とか〈わたしたち〉といった、判りやすいグループは生まれにくいのかもしれないのだけれど・・・だからこそ。

 したがって、私たちの目的は、ある視座を宣言し、公言することではない。私たちは 、震える声、いぶかしむ声、自信のない声で語る。アナーキーなものの豊饒を信じる。意味の交差する多> 義的な体験の物語を紡ぎだす。茫漠とした空間へスクラッチを残す実験的な試みを企んでいる。


だからこそ、〈わたし〉は世界の姿を固定しようなんて思わない。そっと静かに、はかないヴィジョンを語るだけ。そんなヴィジョンなんか、砂漠に浮かぶ蜃気楼かもしれないけれど、オアシスのない砂漠なんてないはずだから。ふいに出会う〈あなた〉とコトバを交わすために、砂漠の上にささやかな足跡を刻み付けていこう。

 私たちは、外部の巨大な殿堂を襲撃し、陥落させようと叫ばない。マージナルな領域から聞こえてくる、かき消された叫びに、注意深く耳を傾けるだけである。私たちは、知の網状組織の共生を祝福したい。私たちは、創発的な思考空間の誕生を祝福したい。そして、何より、陽動的な亡命者・横断する異端者の誕生をここに祝福したいのである 。


世界は破壊するものではなく、変えてゆくもの。だからこそ聞こえてくる呼び声に耳を傾けよ。パスポートはいらない。トランクひとつで出かけよう。目的地は〈あなた〉。旅の準備はいい?・・・〈わたし〉は、〈あなた〉を探すための長い長い旅に、たったいま出かけるところ・・・。

なんだかめちゃくちゃ俗っぽくなってしまいました。意訳と言うより反歌ですね。思春期の女子高校生のポエムという話もありますが。ですがそにあさんの逡巡とためらいがちな決意に敬意を払い、そしてまた、たったいま始まりつつある戦争の知らせのことを考えつつ、はずかしながら書いてみました。そにあさん、みなさん、よかったら採点して下さいね。妄言多謝(笑)。
2003年3月20日、午後1時ペーパー フィッシュ投稿より。
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  by ponkenblog | 2004-07-24 11:05 | introduction

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